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脚本家、寺内小春さん死去

 脚本家の寺内小春さんが5月に亡くなられていたことが先日、明らかになりました。

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http://mainichi.jp/enta/art/news/20100731k0000m040027000c.html
毎日新聞サイト「毎日JP」より引用

訃報:寺内小春さん78歳=脚本家

 寺内小春さん78歳(てらうち・こはる=脚本家)5月12日、急性心筋梗塞(こうそく)のため死去。葬儀は近親者で済ませた。
 67年からテレビドラマの脚本を書き始め、「イキのいい奴」(NHK)と「麗子の足」(TBS系)で向田邦子賞(86年度)を女性として初受賞。「おていちゃん」「なっちゃんの写真館」「はね駒」(いずれもNHKの朝の連続テレビ小説)や「黄落」(テレビ東京)など、数多くのドラマの脚本を手掛けた。

毎日新聞 2010年7月30日 19時00分
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 皆さまは、寺内小春さんという脚本家をご存知だったでしょうか。

 もともと寺内小春さんは一般の主婦で、主婦業のかたわら脚本を勉強してデビューされたそうです。日常的な視点から浮かび上がる作品の目の付け所が絶妙だったのはそのあたりからでしょうか。今で言えば、さしずめ『火の魚』や『その街のこども』で注目されている渡辺あやさんに通じるものがあるのかも知れません。

 よく、ドラマ好きの人は、脚本家が誰か、で見るドラマをセレクトすると言われますが、私の場合も同様で、寺内さんは私にとってそういう「この人が脚本なら必見」という脚本家の一人でした。

寺内 小春 - テレビドラマ人名録 - ◇ テレビドラマデータベース ◇

 私にとって最初に寺内小春さんの名前を意識したドラマというのは、1984年の『ザ・サスペンス/虞美人草』でありました。

虞美人草 - ドラマ詳細データ - ◇テレビドラマデータベース◇

 夏目漱石の原作で大山勝美さんが演出のこのドラマ、結ばれてはいけない兄妹の慕情をメインに据え、小説ではラストの妹の死をドラマ冒頭に登場させるという、大胆な改変を施し、なぜ、妹が死ぬことになったのか、を解明するサスペンスタッチに脚色されて、兄妹の、許されない強い恋情が伝わる一方、閉塞感と開放感が入り混じった「明治」という時代の空気が画面に漂う佳編でありました。

 それ他の寺内小春作品としては、向田邦子原作・原案、久世光彦演出、田中裕子主演のいわゆる『向田邦子新春スペシャル』枠を中心に制作された作品群も触れないわけにはいきません。実は向田邦子原作のドラマスペシャルで寺内小春さんが担当した作品というのはそれほど数は多くないのです。ですが、担当した作品はいずれも高い評価を受けているわけです。あの『向田邦子新春ドラマスペシャル』があれだけ継続したのは寺内小春さんが提供した佳作群の作品があったからこそだった、といえるかも知れません。それは例えば第24回ギャラクシー奨励賞に輝いた『麗子の足』(1987)や、放送文化基金賞に輝いた『女の人差し指』(1986)だったりします。

麗子の足 - ドラマ詳細データ - ◇テレビドラマデータベース◇
女の人差し指 - ドラマ詳細データ - ◇テレビドラマデータベース◇

 恐らく見た視聴者は大半が「向田邦子さんのドラマを見た」という気分だと思いますが、ドラマ好きの人ならご存知のとおり、あの枠は向田邦子さんの原作を下敷きにしてはいるものの、実際のドラマ化では過去の向田作品の数々の持ち味を生かしつつもかなり多くの部分、脚本家がオリジナルに近い持ち味を発揮して作りあげていました。寺内小春さんが手がけられた作品は向田邦子作品の持つ味わいを生かしながらも、寺内小春作品ならではの深い魅力的な持ち味が発揮されていたのです。
 その持ち味の最たる部分は、『虞美人草』でも発揮された、作品の背景となった「時代」の空気が、作品に落とし込まれている、という点にあります。向田邦子ドラマでは、戦前の「昭和」の時代の空気が落とし込まれているわけですが、それが見事なのです。登場人物の、こまかな一つ一つの動作や行動にその時代の空気が感じられる計算が働いている、そんな脚本だったのです。寺内小春さんは格調高く「時代」を描きつつ、そこに激しい恋心を持ち込んだ。厳格な時代の中で、燃え上がるようなヒロインの恋情が描かれた。それは時代ゆえ、かなうことのない、はかない結末でありました。それはちょうど先の『虞美人草』にも通じるテイストであります。寺内小春さんは、この向田邦子新春ドラマスペシャルの一編『麗子の足』で向田邦子賞を受賞されました。

 それ以外の寺内小春作品としては『冬陽の道』という小品が忘れられません。1989年に制作された1時間枠の単発ドラマですが、ここでも、時代に翻弄されて満たされなかった切ない恋が描かれました。

冬陽の道 - ドラマ詳細データ - ◇テレビドラマデータベース◇

 「特攻隊で突撃寸前に終戦を迎えた仁科竜平(西村晃)にとって、昭和という時代の終わりは、張りつめていた糸がぷつんと切れたようなものだった。そんな虚脱感の中、あてもない旅に出た竜平は、名古屋郊外の温泉健康センターで、44年前、将来を誓い合いながらも別れた女性、千枝(加藤治子)と再会した。ふたりは心にわだかまりがありながらも、しだいに言葉を交わす…。【「テレパル」1989/07/01号(小学館刊)より引用】」

 健康センターなどでのわずか2日間の出来事を通して、生きることの意義を見つめ直す味わい深い佳作でありました。

 寺内小春さんの作品には失われた過去の懐かしい時代の良い面を映し出されている一方で、そういう時代ゆえ満たされなかった人々の思いというものが切々と描き込まれていました。
 寺内小春さんの作品を見ると、かつてあれほどまでに深く人を愛した「思い」。結局、満たされないまま、人知れず散っていった、そういう人の「思い」というものはいったいどこに逝ってしまうのだろう…といったような漠とした思いが胸に迫ってくるのです。

 素晴らしい脚本を数々遺されました。ご年齢的にもその死はいずれ避けられないものだったのでしょうが、やはり残念です。そう思われてなりません。あれほどまでにいろんな人の「思い」を書かれた、その創作の熱意の裏側に何があられたのか。
 例えばそういう寺内さん個人のエッセイのようなものも遺して欲しかったような気がいたします。
 寺内小春さん、素晴らしい作品をありがとうございました。

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